琉球八社「沖宮 [おきのぐう] 」へ。
那覇空港の目と鼻の先にあり、沖縄到着後または最終日の観光に便利な場所です。
琉球八社にはそれぞれに違った趣きがあります。沖宮はというと、まるで神と仏の社交場。神仏習合期の名残が強く、広くはない境内に多くの神が祀られていました。
また、琉球王国時代の神を日本神道に習合(もとは別の神を1つの神に同一視する)しているため、独特の言い伝えや名前が存在するのも興味深いところです。
今回は沖宮の旅行記。参拝順路、御朱印や御守の事前リサーチ、駐車場などの旅行者が知っておきたい情報をお伝えします。
琉球八社
琉球王国(1429~1879年)時代に、王府から特別の扱いを受けた8つの神社の総称。波上宮・沖宮・識名宮・普天間宮・末吉宮・安里八幡宮・天久宮・金武宮からなり、真言宗寺院と併置されている。首座は波上宮。祭神(さいじん)は、安里八幡宮が八幡神、ほかの7社は熊野権現。
沖宮の基本情報
沖宮 おきのぐう | |
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入場料 | 無料 |
御朱印 | あり 初穂料500円~ |
参拝時間 | 自由 社務所 9:00-17:00 |
定休日 | なし |
住所 | 沖縄県那覇市奥武山町44番地 |
電話番号 FAX | 098-857-3293 098-857-9762 |
公式HP | okinogu.or.jp |
駐車場 | 奥武山公園駐車場 400台以上 |
所要時間 | 20~50分 |
祭神 | 天照大御神 天龍大御神(父御神) 天久臣乙女王御神(母御神) 天坊子乙女王御神 天仁子乙女王御神 天来子乙女王御神 熊野三神 ・伊弉冉尊 いざなみのみこと ・速玉男命 はやたまのおのみこと ・事解男命 ことさかのおのみこと |
ご利益 | 国家安穏、五穀豊穣、陸海交通安全、勝運、健康、子宝、安産守護、恋愛成就、家内安全、夫婦円満、子孫繁栄、社運隆昌、成長発展、病気平癒、厄除け、縁結び、悪縁切り、学問、合格 |
別当寺 | 沖乃山臨海時※現在は移転 現在地 沖縄県那覇市曙1-18-19 |
祭神読み仮名
天龍大御神[てんりゅうおおおんかみ]
天久臣乙女王御神[あめくしんおとめおうおんかみ]
天坊子乙女王御神[てんぼうしとめおうおんかみ]
天仁子乙女王御神[てんじんしおとめおうおんかみ]
天来子乙女王御神[てんらいしおとめおうおんかみ]
由緒・歴史
時は15世紀中頃。首里城から現在の那覇港を眺めていた国王が、海に光り輝くものを見つけます。漁夫に命じて探らせると、尋常ではない古木が見つかりました。古木を拾い上げた後、海が光ることはなくなったことから、古木を霊木であると確信し、この地(現在の那覇市西3丁目あたり)に宮社を建て、祀ったのが沖宮の始まりとされています。
─沖宮の歴史─
1451年(宝徳3年) 那覇埠頭に創建 ※
1908年(明治41年)
築港のため安里八幡宮の境内地に遷座
1938年(昭和13年) 本殿を国宝に指定
第二次世界大戦で焼失
1961年(昭和36年) 通堂町へ仮遷座
1975年(昭和50年) 奥武山に沖宮復興
※琉球国由来記より。正確な創建年は不明で、源為朝の時代(1100年代)に創建という資料もある
奥武山は「おうのやま」と読みます。
アクセス
【車】
那覇空港⇔奥武山公園駐車場(10分)+徒歩4分
最寄りの駐車場は奥武山公園第2駐車場
沖宮専用の駐車場はなく、奥武山公園の駐車場を利用します。駐車代は無料。
第2駐車場から沖宮の鳥居までは徒歩3~4分。道なりに歩くだけなので簡単。第1駐車場からでも1~2分違うだけです。
第1駐車場
大型3台、身障者用5台、普通車236台
第2駐車場
大型4台、身障者用4台、普通車172台
収容台数は多いものの、イベント開催時や土日は野球の大会で満車になるとか。
車で行くなら平日をおすすめします。
平日の第2駐車場。
沖宮への案内板もあります。
参拝と併せて公園の散策もするなら、奥武山公園MAPを保存しておくと便利です。
沖宮を参拝
第2駐車場から歩くこと2分。入口と書かれた看板がありました。ここから入ると直接本殿に出ます。鳥居から入るならこの入口はスルーして、あと120メートル歩きます。
1度入ってから戻りました…
鳥居の色が独特。扁額 [へんがく] も同じ色で揃っていて、柔らかさを感じます。
鳥居の手前にある「空手に先手なし」の石碑。突然の空手道。
沖宮は空手の聖地のようです。
空手発祥の起源についてはさまざまな説がありますが、琉球王国の士族が教養として学んだ護身術がそのルーツであるといわれています。この護身術は「手(てぃ~)」と呼ばれる沖縄古来の武術となり、その後中国武術と融合し、現在の空手の基本が生まれました。
内閣府「沖縄空手の紹介」
「空手に先手なし」は、空手とは相手を傷つける術ではなく、身を守るための術であるということ。これがもともとの空手。でも、時代は移り、世界に広がるにつれていろいろな解釈(人を傷つけるなど)が生まれてしまいました。そこで、「空手とはなんぞや」を発信するため、聖地として空手の神様を祀っているのが沖宮です。
かなり端折っているので、詳細は沖宮公式ウェブサイト「空手聖地への道!其の一」からご覧ください。
拝殿へと延びる石段の途中、右側に手水舎がありました。
神社によって手水舎の造りは違います。沖宮は庭園風でした。
手水舎を含めて、琉球八社の中で沖宮は独特のセンスを放っています。
拝殿
拝殿に行くと
沖宮クリスマスバージョン。12月は、神道、仏教、キリスト教が集う多宗教な拝殿になっていて、一瞬どこを見たらいいのかパニックになりました。
日本、中国、欧州、アメリカが一堂に会した光景に、しばらく立ち尽くすつまぽん。
でも、この柔軟さが沖宮のいいところ。ハロウィン、ひな祭り、七夕まつり・・・人の心が躍るイベントには積極的に取り組むオープンマインドな姿勢です。
拝殿の扁額。厳かに輝く金色文字。
参拝方法は二礼二拍手一礼。
拝殿での参拝が終わったら、他の拝所にも拝みにいきます。
拝殿の手前にある授与所では境内図をいただけます。
紙を持ち歩くのが面倒なら、公式ウェブサイトの境内案内図を開きましょう。少し加工した画像を下に貼っておきます。
興味があれば、沖宮略記もいただきましょう。
住吉神社
拝殿の右にある通路を歩くと、住吉神社がありました。沖縄では普通の家のような社殿や拝所をよく見かけます。中に入ることもでき、神様が身近に感じられます。
境内図によると、住吉神社で祀られているのは十二支の「子、丑、寅」の神。
全国で知られる住吉神社の御祭神は、表筒男命[うわつつのおのみこと]、中筒男命[なかつつのおのみこと]、底筒男命[そこつつおのみこと]の三神ですが、琉球では呼び名が違うようです。
(夫婦神)
- 【子】天風龍大神[あまふうりゅうおおかみ]
=表筒男命 - 表臣幸乙女王御神[うはしんこうおとめおおおんかみ]
(夫婦神)
- 【丑】天火龍大神[あまひりゅうおおかみ]
=中筒男命 - 中臣幸乙女王御神[なかしんこうおとめおおおんかみ]
(夫婦神)
- 【寅】天水龍大神[あますいりゅうおおかみ]
=底筒男命 - 底臣幸乙女王御神[そこしんこうおとめおおおんかみ]
入口の前には大國大明神、混比羅大明神、恵比須大明神の石碑。住吉神社に遊びに来ている感じさえします。ここだけで六神を拝むことができました。
視線をずらすと権現堂の屋根。沖縄らしい屋根瓦が新鮮です。
八坂神社
拝殿前に戻り、今度は左の通路へ。
行きついたのは順路の3番目「八坂神社」。
沖宮略記を見る限り、京都の八坂神社とは祭神が異なるので別の神社のようです。
こちらもまた古風で民家のような佇まい。もちろん中に入れます。
境内図によると、十二支の「卯うさぎ、巳へび、午うま、未ひつじ、申さる、酉とり、戌いぬ、亥いのしし」の神が祀られています。
(夫婦神)
- 【卯】辨天負しろ大神 べんてんよしろのおおかみ
- 【申】仁天屋船或久姫神 じんてんやぶねひくひめのかみ
(夫婦神)
- 【午】辨天負り彦大神 べんてんよりひこのおおかみ
- 【酉】仁天屋船久久姫神 じんてんやぶねくくひめのかみ
(夫婦神)
- 【未】仁天屋しろ大神 じんてんやしろのおおかみ
- 【亥】來天皇明久或姬神 らいてんすめあけくひひめのかみ
(夫婦神)
- 【戌】來天皇久能知大神 らいてんすめくのちのおおかみ
- 【巳】辨天負久知姫神 べんてんよくちひめのかみ
祈祷殿
八坂神社の隣りにある祈祷殿。奥行きがない社殿です。見逃しやすいので注意。
ここには、導きの神、道の神と呼ばれる猿田彦命 さるたひこのみこと が祀られています。ご利益は、芸能、縁結び、交通安全など。
本殿の屋根が見える石段
順路の5番目「天燈山御嶽」へは、やや急な石段を上っていきます。段数は多くなく、手すり付きの舗装された階段です。
石段の途中で、八坂神社と本殿の屋根を間近で見ることができます。
伊勢神宮と同じ神明造り。瓦は琉球風ですが、本殿の屋根をこんなに近くで見られるのは珍しい。じっくり見学させてもらいました。
天燈山御嶽 てんとうさんうたき
天燈山御嶽は沖宮参拝の最重要スポット。現在の沖宮はこの場所が始まりの地です。
あるとき、先代宮司にご神託が下ります。
お告げを聞いて天燈山に石碑を建立します。すると、再びご神託が下りました。
こうして、今の沖宮に至ります。
由緒のポイントまとめ
- 海で光っていた古木を祀ったのが沖宮の始まり
- 築港で遷座した先で戦争により本殿を焼失
- 天燈山に古木の根があるとお告げが下る
- 石碑を建立
- さらなるお告げで天燈山の麓に沖宮を復興
石碑は右から
- 天受久女龍宮王御神[てんじゅくめりゅうぐおおおんかみ]
=天照大御神 - 天受久男龍大御神[てんじゅくをのりゅうおおおんかみ]
=須佐之男命 - 底臣幸乙女王御神[そこしんこうおとめおおおんかみ]
=恵比須大明神
と刻まれています。
─沖宮(琉球)独特の言い伝え─
天照大御神は神々を仲人するため琉球に三度降臨。時期で呼び名が異なります。
- 天受久女龍宮王御神 [てんじゅくめりゅうぐうおうおんかみ]
- 天智門女龍宮王御神 [あまちじょうめりゅうぐうおうおんかみ]
- 天受賀女龍宮王御神 [てんじゅかめりゅうぐうおうおんかみ]
3つとも天照大御神のことです。
以前はなかったスサノオ(天照大御神の弟)まで登場し、沖宮は「神祀り祭」です。
石碑の前では丁寧なお参りをされていたので、遠くから参拝して静かにこの場を離れました。
また、天燈山御嶽に向かって左側には、うるま世界平和之島の碑があり、高台からの景色を臨めます。
水神
順路6番目の水神へ。見落としがちな場所にあります。
入り組んだ小さな村の中を歩いているようでおもしろい。
奥に井戸が見えます。沖宮の神様にお供えする水は、この井戸から汲んでいるそうです。隠れ家のようで、境内図がないと見つけられません。
弁財天
参拝順路7番目の弁財天宮へ。十二支の「龍」の神様です。
雰囲気が一変しました。小さな滝があり、水が流れ、魚が泳いでいます。
弁財天は七福神で唯一の女神。水を司る神様で、水にまつわる場所に祀られていることが多いです。琉球八社の一つ天久宮でも、弁財天の周りは池になっていました。
手前の仏像は「みずこ地蔵」。土地を守護し、みずこを守る菩薩です。弁財天もみずこ地蔵も仏教由来。沖宮は仏教と神道が近いまま残っていました。
弁財天は、金運、学問、芸術・芸能、美容にご利益があると言われています。
権現堂
参拝順路の最後8番目は権現堂。
権現とは、日本の神々は仏や菩薩の仮の姿とする思想から生まれた神号らしいです。神道からすれば受け入れられないことですが、神仏習合期の仏教側の発想ということでしょう。
仏像が祀られています。仏式と神式が重なりあう神仏習合時代の歴史。
どの神がどの仏とかを追求し出すと抜け出せなくなります。深く考えるのは専門家に任せて、七福神と十二支が祀られている場所と考えた方が幸せです。
頭がゴチャゴチャになって諦めました
気になったのは金色に輝くこの仏像。
武道神「ブサガナシー」。
まだ新しく、小さな像ですが圧が強かったです。
無事に8か所を巡り終え、御朱印をいただきに授与所に向かいます。
ここで想像していなかった悩ましい事態が起きました。
御朱印で10分悩む
授与所に戻り、御朱印をお願いしようと初穂料を確認したとき目に映ったのが、
種類がある。しかも選択肢が多い。
一般的な普通の御朱印(初穂料500円)のほかに、記念になりそうなイラストつき御朱印がラインナップ。
※初穂料は2021年12月時点
一例を紹介すると、
例えば、21番を選ぶとこんな御朱印をいただけます。
もし初穂料が2倍だったら悩みません。悩ましいことに差額はプラス200円程度。
欲しい。
10分ほど悩み、天燈山御嶽に決定。
授与所で悩むのは御朱印だけではありません。
御守も多い。
参拝に訪れたのが12月ということもあって、正月飾りも多く並んでいましたが、神秘的なデザインから、いかついデザイン、かわいいデザインと多種多様です。
あと、沖縄バージョンの御朱印帳も記念になります。
上の青い御朱印帳は、葛飾北斎の琉球八景がモデル。
表(左)は「臨海湖声 りんかいこせい 」という作品に赤い鳥居を付け足したもの、裏(右)は 「龍洞松濤 りゅうどうしょうとう 」という作品です。
ちなみに、北斎は琉球には行っていません。中国から派遣された周煌 [しゅうこう] がまとめた琉球国志略の挿絵「球陽八景」を元にアレンジしたのが琉球八景です。
御朱印や御守をいただく予定なら、先に沖宮公式サイト「御守・御札」のページで目星をつけておくといいかも。現場はそれ以上にありますけど。御朱印と御守で20分もウロウロしてしまいました。
最後に
冒頭で神と仏の社交場と紹介した沖宮。境内を歩いているときは、神様のお宅を1軒ずつ訪問している気分にもなりました。
琉球の信仰に仏教や神道が習合しているからか、聞きなれない名称が多くあり、理解しようとするのは底なし沼に両足を突っ込むようなもの。何も考えずに独特の文化や景色を楽しみながら巡るのが最適解かもしれません。
個人的には、琉球八社の中でもっともインパクトが強かった神社でした。
参拝日:2021年12月2日
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